P.831

二.南北総選挙に対する周辺国の立場

 ソ連は今体制のもつ体質を改善しようと力を入れています。そのソ連のゴルバチョフは韓国を中心とする極東アジアに対して、友好的なジェスチャーを交えながら接近しつつあります。ゴルバチョフはソウル・オリンピックを通じて、世界の国々に対して友好的な国家であるという宣伝を行い、アメリカに対してはより平和的なジェスチャーを使うことになるのです。

 ゴルバチョフはアメリカに対して韓国の統一のために総選挙を実施させようという内容を提示するのです。このような提案を受ければアメリカは言下に拒絶することができずに、それを受諾するしかないのです。統一問題は韓国の学生たちと在野勢力、そしてすべての離散家族たちが等しく願っている事案であるということを知っているために、一方で不安感をもちながらも拒絶できないようになっています。

 ここで問題となるのはアメリカ軍の撤退がまず先行されなければならないということです。今日韓国においてもアメリカ軍の撤退を願う声が高くなりつつあります。これはアメリカが韓国を従属的な関係において内政にまで干渉し、更には剰余農産物の処理場として韓国を利用しようとしており、甚だしくは人体に有害なアメリカ産の煙草まで買い付けるようにと圧力を加えていることに対する反対作用として起こっている動きでもあるのです。

 ゴルバチョフの南北総選挙を通じた統一の提案に対して、その動きが反米運動と一致することになり、そのことによってアメリカ軍が撤収せずにはいられず、また南北総選挙の提案を巡って韓国政府も混迷に陥るようになることは火を見るよりも明らかなのです。アメリカには民主党と共和党があるのですが、民主党では今現在もアメリカ軍の撤収を主張しているところに加えて、ソ連の提案が韓国からの名誉ある撤収のよい機会であると見なして、結局は撤収することになるのです。

 今回アメリカ大統領選挙において民主党の候補が当選すれば当然そのようになるのです。民主党から大統領が出れば、ソ連からの提案がなくてもアメリカ軍を完全撤収させるのは分かり切っています。問題は第二次大戦以後アメリカが四十余年間、外国に対する援助の一環として多くの国々を助けてきたのですが、韓国での反米運動によってアメリカ軍の撤収が実現することになれば、これが外交的な失敗として記録されることとなり、国際社会におけるアメリカの影響力は非常に萎縮することになるでしょう。このような時にソ連の提案を好機と考えて、アメリカ軍撤収を断行するようになるのは間違いありません。また総選挙を通じた南北統一ならば人口の面においても南韓が北韓の二倍にもなるために、その結果に対しても楽観視することのできる絶好の機会と考えるようになるのです。

 総選挙による南北統一の方案がソ連によって提示され、アメリカがそれでよいと応じれば、北韓も仕方なくこれに従わずにはいられないのです。ソ連の提案を拒否する力もありませんが、同時に世界から完全に孤立してしまうような結果を望みはしないからです。また北韓が信じているのは四十年の間金日成の主体思想を教育してきたことと、それに加えて南韓に反体制人士や左傾勢力が多いという点を計算に入れたうえで応ずることになるのです。(一九八八・五・一)

 南北を中心とする情勢から推察する時、アメリカも、日本も、中共ももう争うことは望んでいません。争いをしようとは思わないのです。そのためこの三国が連合して平和的な政府樹立を指導しようとするのは火を見るがごとしです。いつそのようになるとも分からないのです。アメリカもできるだけ早く、日本もできるだけ早く、中共もできるだけ早く、そうなることを望んでいるのです。中共は以北が南韓に対して……。そうではありませんか。以北が対話の広場を開いたと思ったらまた全部閉鎖してしまいましたが、これから先の国際情勢に押されて再びそれを開かざるを得ない時代に入ってくるのです。(一六三―三二三)

 韓国の周辺情勢は統一の道へとまっしぐらに突き進んでいます。政治的な関係だけを除外して体育、文化、経済の各分野において、イデオロギーの障壁は既に崩れ去りました。中共には多くの韓国の企業が進出する準備を急いでおり、ソ連と東欧圏もまた本格的な交流を始めつつあります。既にそれらの国家に入っていって交易の契約を結んできた事業家もいます。

 歴史は既に変わりつつあります。金日成が南韓を赤化統一しようと公言しつつ、共産国家を中心に政治運動を展開したような時代はもう過ぎ去りました。今日の世界歴史は平和時代に向けて突き進んでいます。しかしながら、本当の平和は解放の後に巡ってくるようになっているのです。(一九八八・一・七)