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第二節 北韓の実情

一.挙動の自由がない北韓

 以北に行くと、以北には既に挙動の自由がありません。ある部落から他の部落まで行くにも絶対一人では入ることができません。一つの部落から自分の思いどおりに行ったり来たりできないのです。親でさえも自分の息子の住んでいる部落へ行こうとすれば、必ず党の許可を受けなくてはなりません。

 横的な連絡は絶対禁止です。こうしておいて縦的な命令だけを遂行しろというのです。妻がいてもその実家にもいけず、婿や嫁の両親、その親戚というような遠い親族はもちろん、自分の息子、娘も訪問できないのです。夏には伝染病が流行すると噂を流して注射を打って行くようにというのです。誰が注射を打ちに行くでしょうか。注射を打ちに行けばそれだけで終わりますか。なぜ行くのかとか、やたらに質問をするのです。だから注射を打たずに帰りますと言うようになっていて、注射を打っていこうと言う人はいないのです。何の話か、分かりますか。

 以北では最初から「行く」と言えるような環境与件を許さないのです。全部しつこく尋ね回し、それでも行くと言えば、そこの党責任者に誰彼が行くと連絡して、そこからOKが出なくてはなりません。一度でもどこかに行くのがどれほど難しいでしょうか。もう最初から、そこで生まれたらそこで死ぬようになっているのです。 猪 の子さえ餌を探して思いどおりに動き回ることができるのに、人間がそのような猪や子犬程度の価値もないのでしょうか。子犬ほどの価値もないのかというのです。このように思いどおりに活動ができないので、以南から以北にスパイが行ってもそのまま丸ごと捕まってしまうのです。また、証明書がいります。党の証明書、「民青」の証明など、あれこれ合わせて十余通にもなるのです。近ごろでは十八通にもなるということです。

 ですから動こうとすれば、このようなすべての与件を選び出して、それを踏み越えなければならず、自分が公認を受けるようにしてから越えなければならないのですが、行ったその先でもまた質問をするのです。これこれの用件で来たと言うが、実際そのように行動するのか、しないのかを監視し、枠にはめ込んで見るのです。そこでもし違う行動をしたとなれば許しがありません。そのような社会なのです。何の話か分かりますか。 横的な関係は許されないのです。(一六三―一九六)